燃料問題：イギリスで次々と消えていくパブ

先週のブログでは光熱費の高騰に伴い、フィッシュ＆チップス店が次々に廃業してしまっていると報告しましたが、昨日のBBCニュースによると街から消えてしまっているのはフィッシュ＆チップス店だけでなくパブもでした。

2005年から調査をしているアルタス社によると、去年はイングランドとウェールズ合わせて400店減り、今年上半期で約200店、総数は過去最低とのことです。

イングランドとウェールズだけではなくイギリス全体では一体どれだけあるのか調べてみたところ、2018年には41,536店あったのが2022年上半期は4万を切ってしまったそうです。また10年前と比べると7,000店も少ないとか（参考先：Bloomberg UK）。同記事内では「パンデミックでも、驚くほどの回復力を見せたのに、今度は光熱費の高騰、インフレ、増税などが押し寄せてきて、新たな危機に直面している」とアルタスの社長が述べていました。わずか半年間でイングランド西部では28か所、ロンドンとイングランド東部ではそれぞれ24か所が店を閉めてしまったそうです。

ちなみにどんな小さな村でもパブと教会だけはあるな、と思い教会の数も調べてみたところ、約4万でパブの数を上回るそうです（そのうち1番多いのが16,000の英国国教会）。

話が逸れましたが、パブが廃業に追い込まれる一番の理由は光熱費の高騰でした。年間で3倍になっているパブもあるようです。光熱費の大半を占めるのは暖房費で、これから寒くなる今、政府からの支援を待ち望んでいるパブ関係者が多くいます。

パブを経営しているサイモンクリアリィ氏の場合はガス代のほとんどが暖房費で2割が調理のためだそうです。彼は「電気代を節約するために電球をLEDに変えましたが、あまり節電にはなりません。冷凍庫、冷蔵庫、セラー（地下貯蔵庫）のクーラー代は冬でも必要なのです。またパブの建物の多くは古いもので、（今では標準となっている）空洞壁に断熱材を施しているパブなどはありませんでした。このパブも1780年に建てられましたが、その頃は誰もエネルギーの節約など考えていなかったのです」と話していました。

パブによっては毎月の光熱費が賃貸料を上回っているところもあるとか。家賃よりも光熱費の方が高いとは。

またビールを作るのに必要な二酸化炭素（CO2）も不足する可能性が出てきました。これはCO2を製造するCFインダストリーズ社がエネルギー価格の上昇により生産継続にコストがかかりすぎるために、工場の１つを臨時閉鎖することを発表したからです。まさに負の連鎖。

さらに、先月数回に渡り行われた交通機関のストもパブの売上を大幅に下げていました。一部の交通機関は動いていましたが、夕方までの短縮操業だったりしたのです。

大手のパブ経営者団体ではセラーの省エネ設備や冷蔵庫のエネルギー使用量を管理する設備に投資をしていたり、エネルギーを一括購入したり、あらゆる手段を使ってビジネスを継続させようと努力しているようですが、「今回は自分達だけでは支えきれないほどの規模なので政府の介入がどうしても必要だ」と全国で1,600店のパブチェーンを持つアドミラルタバーンのトップのクリスジョウゼイ氏が述べていました。

なおこれだけ大きな問題になっているのに、政府は次の首相が決まるまでは新たな政策を発表しないと言っているそうです。

クリスジョウゼイ氏は「多くのパブが経営困難に陥っているのに、なんらかの政策を打ち出す前に、たった一人の人間が選ばれるのを待つなんて信じられない。その政策によって多くの失業者を守り、生活を守るだけでなく住む家も守ることになるはずなのに。この国ではパブの経営者の多くは同じ建物に住んでいるんです。」とも述べていました。多くの経営者にとって廃業は家を無くすことを意味するのですね。

またイギリス最大のパブグループで3,100以上のパブを有するグリーンキングのトップ、ニックマッケンジー氏は「全国中でパブが支払い不能に陥り、失業し、地元民に愛されていたパブの扉を閉めざるを得ない状況」に直面する可能性があると懸念しています。「パンデミック中にパブが継続できるために行ってきた全ての支援が無駄になる可能性もある」とも述べていました。

イギリスの郊外をドライブしているとどんな小さな村にもパブ（と教会）があるのに、そのパブが廃業し、更地になったり住宅地になってしまうのは避けたいと願う人が多いのではないかと思います。

政府関係者の多くがまだ長い夏休み中ですが、9月5日には新しい首相が決まります。そうしたら一刻も早くこの異常な燃料問題に真剣に取り組んで欲しいものです。