健康な若者にコロナ感染させた治験とその貴重な結果
治験というと製薬企業が新薬開発のために健康なボランティアに治験薬を少量投与して安全性を確認し、次のステップでは患者さんに投与して効果を確認、というのが一般的です。ところが昨日のニュースでは、「故意にコロナに感染させた治験でユニークな結果が得られた」という記事を見つけました。
わざと感染させてしまうの?と驚き関連記事も含めて読んでみたところ、ますますすごい治験だったことがわかりました。
この治験は「Human Challenge Programme」と呼ばれ、ロンドンのインペリアルカレッジ大学、ワクチンタスクフォース、DHSC(Department of Health and Social Care)、hVIVO (Open Orphan plc.という臨床研究機関の一部)、とロンドンにあるRoyal Free hospitalが共同で今年の初めに行いました。世界初だそうです。(話題からは外れますが、イギリスではプログラムのスペルはprogrammeが一般的です。アメリカではprogram)
今回の治験の対象者は18歳から30歳までの健康でワクチン未接種、そして感染したことのない人たち。36名が登録しましたが、そのうちの2名は途中で条件から外れたためデータが取れたのは34名になりました。
微量のコロナウイルスを鼻から投与。34名のうち18名に陽性反応が出ました。そして感染した18名のうち2名が無症状、16名に症状が出ましたが、投与から平均して2日後でした。今まではウイルスが体内に入ってから5日後に発症と考えられていましたが、ここで潜伏期間は5日ではなく2日ということがわかりました。
また症状は鼻づまり、鼻水、くしゃみ、喉の痛みなど風邪の症状と同じで、典型的な症状とされていた「咳が止まらない」という症状は今回見られませんでした。また中には頭痛、体の節々の痛み、だるさを訴えた人もいました。そして13名は味覚、嗅覚が無くなり、ほとんどの人が90日以内に正常に戻りましたが、3名はその後も続いたものの3ヶ月後には症状が改善したそうです。誰1人として肺に異常は見られず、有害事象も発生しませんでした。
ウイルスは最初投与後40時間で喉に見つかり、その次が鼻腔内で58時間後、喉のウイルスに比べ、鼻のウイルスはより多く見られたので、このことからもマスクを着用するときは鼻もしっかりカバーすることの大切さが裏付けられました。
また最近の簡易テストは鼻から採取するだけなので、例えばイベント会場などに行った2日後にテストをしても陽性かどうかはまだわからないですね。
これらのウイルスは5日後にピークを迎え、その後は減少するものの、平均して投与後9日目まで、最大12日目まで検出されていて、多くのガイドラインで推奨されている隔離期間の裏付けにもなりました。
尚、治験後12ヶ月は長期的な影響がないかどうかを調べるために全ての参加者を対象に調査を続けると同時に、今回感染しなかった人達は何故しなかったのかの研究も進めていくそうです。
ちなみにこの投与したウイルス菌は初期のアルファ株。その後発見されたデルタ株での治験もすでにインペリアルカレッジで始まっているそうです。次はオミクロン株?
また今回の治験の対象者はリスクの少ない健康な若者でしたが、将来はリスクの多いと言われている高齢者での治験も視野に入れているとのこと。
この治験結果は今後のワクチン作成、コロナの治療薬の開発に役立つ貴重なものだったと関係者は話していました。今までの研究はコロナに感染してからの分析だけでしたが、今回はウイルスが体内に入ったその瞬間から体内から消えるまでにわたって分析ができたのです。
治験結果は以下のサイトで誰でも入手できます。科学者や医療関係、製薬関係者には興味のある論文ではないでしょうか?私も読んでみましたが、とても詳細に書かれていて長くて途中で断念しました。
ARTICLE: Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge
私も治験に参加したい!と思われるイギリス在住の方は以下のサイトから登録ができるようです。
私は?…遠慮しておきます。
作成日:2月4日
関連記事:https://www.bbc.co.uk/news/health-56097088、https://www.bbc.co.uk/news/health-60229388、https://www.imperial.ac.uk/news/233514/covid-19-human-challenge-study-reveals-detailed/、https://www.nature.com/articles/d41586-022-00319-9、https://www.researchsquare.com/article/rs-1121993/v1
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