NHSの隠れたリストに載っている多くの患者さんたち

NHS（国民健康サービス）が提供する医療サービスを受ける順番待ちリスト（ウェイティングリスト）に載っている患者さんの数は760万人といわれていますが、この数は「新規でまだ治療を始めていない患者さん」のみだそうです。すでに治療が開始されたものの、次の治療が受けられずに長く待たされている患者さんはこのリストには含まれていないと今朝のBBCに載っていました。

治療が始まるとこのリストから外れますが、継続的な治療が必要な病気にも関わらず、受けられない多くの患者さんがいます。その人達はこのウェイティングリストに再び名前を登録され、モニターされるべきなのですが、実行している病院は少なく、「隠れたウェイティングリスト」に載り、そちらは公表されていません。

その記事には69歳の男性の例がありました。視力が徐々に低下してしまう「湿性AMD」を患っているそうです。視力低下を防ぐためには８週間に１度の注射が必要ですが、それが16週間に１度になっているので、とても心配だと述べていました。

また別な例として、進行性の遅い皮膚がんになった64歳の女性が、治療を受けていたにもかかわらず、３つの病院にまたがっていたため、「隠れたウェイティングリスト」からも外されてしまっていたことが発覚しました。どの病院でも「転院した」と思ってしまったのでしょうか？この隙間に落ちてしまう患者さんが実は多いとのこと。確認ミス、登録漏れ、人手不足。この患者さんは現在「緊急」扱いで手術を待つことになったそうです。

また激しい腹痛を訴えているにも関わらず、いつまでもウェイティングリストに載ったままの男性が法的措置を取ることを検討しているとBBCのインタビューに答えていた例もありました。

他にもがん患者さんで治療後に再発していないかをチェックするために一定の期間後に病院に戻るはずが、やはり長い間待たされているケース、あるいは心臓病を患い、処方薬を服用していてその薬がちゃんと効いているかどうかを定期的に調べないといけないのに待たされているケースも多いようです。

「この隠れたウェイティングリストは見逃されてしまうケースが多い」とヘルスファンデーションのダイレクターの1人が述べていました。遅延が患者さんを危険にさらしているので、今何が起こっているのかを監視・監督の強化が必要だとも。

NHS医療従事者は決してサボっているわけではなく、できる限りのことをしていますが、限られたリソースでは追いつくことは不可能だとマクミランキャンサーサポートの責任者パテル氏も述べていました。

NHSの病院がそんなに待たされるなら自費で治療を受ければいいと思われるかもしれませんが、自費だと100％負担になり、長期にわたる治療費や手術代を払うのは無理な方が多いのが現実です。

NHSの場合子供と60歳以上を除き処方箋代などは一部有料になるものの、大きな手術やお産、長期にわたる治療も含めて全て無料です。つまりNHSの病院では退院の時も「会計」は発生しません。会計窓口も存在しないのです。

この費用は国民の税金から払われています。イギリスでは16歳以上の就労者は、National Insurance Contributionと呼ばれる保険料の支払いを求められるのです。それも収入の約1割取られてしまいます。所得税2割とは別に取られます。給与明細書をもらうたびに痛い出費だなと思っていました。

もちろん私立の医療保険もあり、多くの会社では雇用者に提供しています。でも個人で入ろうとした場合、いったいいくらかかるのかと思い、先ほど私立の保険を紹介して手数料を取る会社に問い合わせてみました。まさかブログを書くための調査ですとは言えず、今朝のBBCの記事を読んで不安になったから、と話したらいろいろ親切に教えてくれました。保険料は平均して月に£80（約15,000円）のようです。ただ、既往症がある、メンタルヘルスもカバーして欲しい、将来がんになるかもしれないのでそれも、と条件を追加するともちろん保険料は高くなり、月に£150（約30,000円）に跳ね上がりました。それも最初の£500（約10万円）までは自分で払うという条件下です。そしてその上はいくらでもありました。

記事の最後にNHSイングランドの広報担当者は「国のガイダンスでは、定期的な経過観察や治療が期限切れになり、医者と合意した期間よりも長く待たされる場合、その患者は（正規の）ウェイティングリストに追加され、公表された数字に含まれるべきだ」と述べていました。

でもそうしたいのに人手不足でできないのが現状です。早くこの問題が解決し、1人でも多くの患者さんが無事治療が受けられるようになり、完治しますように。